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【定修DX 後編】80時間/人の工数削減を実現したプラントの「保全記録DX」とは?

連載の前編では、限られたリソースでプラントを維持するための戦略として「選ばれる現場作り」「現場工数のスリム化」「現実的な技能継承」という3つの指針を提示し、その共通の鍵となる「デジタル化」の重要性についてお伝えしました。

後編となる本記事では、その最初のステップとして最も効果的な「保全記録DX」に焦点を当てます。

なぜ保全記録のデジタル化が急務なのか、そして、いかにして現場の負荷を軽減し、定修コストの適正化と安全性を両立させるのか、実務的アプローチについて徹底解説します。

目次

定修の現場を停滞させる「アナログ記録」の限界

プラントの定期修理(定修)は、極めて短期間に膨大な数のタスクを遂行するプロジェクトです。膨大な点検工程に対し一つひとつ確実に作業を行い、その証跡を残すことが求められますが、現在も多くの現場では「記録」がいまだに紙の帳票や手書きのメモ、デジカメによる写真撮影といったアナログな手法に依存しています。

こうした運用は一見すると慣れ親しんだ効率的な方法に思えるかもしれません。しかし、実務を精査するとそこには前編で言及した「3つの戦略」を揺るがすリスクが潜んでいることがわかります。

転記と照合に費やされる「事後の膨大な時間」

現場で記入された野帳や手書きのチェックリストは、そのままでは報告書にはなりません。

作業員や監督者は事務所に戻り、デジカメから写真を取り込み、手書きメモのExcelへの転記、図面との照合といった「二重入力」を強いられます。 この「事後の事務作業」は、工期全体を通じて一人あたり数十時間という莫大な工数を生じさせています。
本来スリム化して削ぎ落とすべき「付加価値を生まない時間」が積み重なることで現場は疲弊し、記入ミスや写真の取り違えといったヒューマンエラーが頻発する遠因となっています。

記録の「不確実性」による手戻りとリスク

アナログ管理の最大の弱点は、記録の正確性が個人の記憶や注意深さに依存してしまう属人性にあります。

「写真を撮り忘れた」「どの箇所の写真か分からなくなった」「数値を書き間違えた」といったミスは、どれほど熟練した作業員であってもゼロにすることは困難です。 個人の特性に頼らず、ミスを構造的に防ぐ仕組みがなければ、記録の不備を回避することはできません。
その結果、再確認のために広大なプラント内を移動したり、プラントの再稼働後に不具合が見つかったりと、多額の追加コスト(手戻り)を発生させる要因となります。

情報の「孤立」と職場環境への影響

紙に書かれた記録や個人のPCに保存された写真は組織全体で共有・検索することが難しく、事実上の「死んだデータ」になりがちです。過去のトラブル事例や特記事項をすぐ探し出せない環境は、次回の定修時に同じミスを繰り返したり、ベテランが持つ「現場のクセ」が引き継がれなかったりといった、技能断絶を加速させてしまいます。
このような状態は、若手スタッフやパートナー企業から「非効率な現場」と見なされる要因にもなりかねません。情報の透明性を高め、誰もが知見を武器にできる環境を整えない限り、次世代に選ばれる魅力的な現場を実現することは困難です。

保全記録を「生きた設備資産」にするDXアプローチ

アナログ記録のリスクを解消するために必要なのは、単に「紙をPDFにする」といった電子化ではありません。現場作業から報告書作成、次回の計画策定までを一貫したデータの流れとして再設計する、「保全記録DX」の実装です。

保全記録のデジタル化を最優先すべき理由は、記録が保全業務全体の「起点」となるからです。情報の発生源をデジタル化することで、その後の報告や分析といった管理業務全体を連鎖的に効率化することができます。

入力と同時に報告書が完成する仕組み

デジタルツールを活用し、現場でタブレットやスマートフォンから点検結果を入力・撮影すれば、その瞬間に報告書のフォーマットに反映される仕組みを構築します。これにより、事務所に戻ってからの転記作業という「付加価値を生まない工程」をゼロにすることが可能になります。

システムによる「記録品質の標準化」

「全ての項目を入力しなければ完了できない」「基準値外の数値が入力されたらアラートを出す」「現場写真の添付を必須にする」といった制約を設けることで、作業員のスキルや経験に左右されずに記録の正確性を担保します。このように強制力を持たせることで、属人性を排除して記録品質を標準化することができます。

「情報の資産化」とリアルタイムな利活用

現場で入力されたデータがクラウドを経由して、リアルタイムに組織全体に共有されるようにします。作業結果は自動的に履歴として蓄積されるため、記録は「生きた資産」へと変わります。例えば、現場で過去の修理履歴を即座に参照できるようになれば、移動の手間が省けるだけでなく、誰もがベテランの知見を活用した高度な保全業務が可能になります。

失敗を避けるための「デジタル戦略」の重要性

一方でデジタルツールの導入は必ずしも容易ではありません。プラント現場特有の過酷な環境や多岐にわたる協力会社との連携など、考慮すべき点は多岐にわたります。高機能なシステムを導入したものの、使い勝手の悪さから結局使われなくなってしまうという失敗事例も少なくありません。

保全記録DXを成功させるためには単に機能を比較するのではなく、以下のような実務的な視点に基づいた戦略が必要です。

  • ITに不慣れな人を置いてけぼりにしない操作性:
    ITリテラシーの有無にかかわらず、誰でも迷わず使用できるシンプルな操作性が定着につながります。

  • スモールスタートと段階的な拡大:
    最初から全てを変えようとせず、まずは特定の工程やエリアから成果を出し、現場の納得感を得ながら広げていくアプローチが有効です。

「一人あたり80時間の工数削減」を達成した大手化学メーカーの導入事例

こうした「保全記録DX」に取り組んだ結果、顕著な成果を上げている大手化学メーカーの事例を紹介します。同社では、定修における保全業務の透明性を高め、コストを適正化することを目的にデジタルツールの導入を決定しました。

当初、現場からは「操作に慣れるまで時間がかかるのではないか」「現場の作業時間が延びるのではないか」という懸念の声もありましたが、実際に運用を開始してみると、その効果は予想を上回るものでした。

報告書作成の「ゼロ化」で80時間の工数を削減

特筆すべきは、現場担当者一人あたり約80時間もの事務工数削減に成功したことです。従来は工事終了後に膨大な時間を要していた報告書作成業務が、現場作業の完了とほぼ同時に終了するようになったためです。
デジタルツール導入の成果の詳細はこちらのお役立ち資料にて公開しています。

次世代のプラント運営を支える「土台」を作る

本連載を通じて、定修DXのための戦略的指針、そして最初の一歩としての保全記録のデジタル化の重要性について解説してきました。

私たちが直面している現実は決して楽観できるものではありません。しかし、現場の情報をデジタル化し、記録の不確実性を排除することは、単なるコスト削減を超えて、日本の産業の礎であるプラントの安全と品質を次世代に繋ぐための大きな一歩となるでしょう。


「具体的にどのような仕組みを構築すべきか?」「自社の現場に最適な進め方は?」といった疑問をお持ちの方へ、本連載の完結編として、より実践的な知見を詰め込んだガイドブックを公開しています。

【無料公開中】定修コストを劇的に削減する「保全記録DX」実践ガイド

本資料では、今回ご紹介した大手化学メーカーの成功事例を交えながら、化学プラント特有の課題を解決するための具体的なノウハウを解説しています。
現場の負担を軽減し、持続可能な保全体制を構築するためのヒントとして、ぜひ本ガイドブックをお役立てください。

資料でわかること

  • 「紙の運用」がコストとリスクを増大させる4つの根本原因
  • 「記録の不確実性」を根本から解消する、3つのデジタル戦略
  • 現場担当者一人あたり80時間の工数削減を実現した導入事例

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